Wake Up Call




怒り顔で車を夜走らせている私に


後部座席から

『ママ、お家に帰ろう』


と2歳の娘が言った。



『ママ、手を握る』

そう言って、私が運転をしながら、後部座席に手を伸ばすと

2歳の娘の小さな手は震えながら、私の人差し指を握った。


『帰りたい?』


そう聞くと

『うん、パパのところに帰ろう』


そうか細い声で言った。


バックミラーで彼女の顔を見ると、

彼女の顔が夜の電灯の光を照らしていく。



どうしよう。


ことの発端は、些細な喧嘩だった。

うちの家のタンスの引き出しが一つ壊れている。

アンドリューのTシャツが入っているのだが、そのタンスが引き出せないのだ。


『これ、昨日直したのに、今日、また壊れている。

 俺は、触っていない。だとしたら、他に誰がやったと思う?』


そう彼は言った。


『私がやるわけないじゃん。』


『じゃあ、他に誰がやるんだよ。』


『知らないよ!私はやってない!』


『こんな重いの、他に誰がやるんだよ』


『だから、私じゃないってば!』


そんな言葉の言い合いになった。

そして、アンドリューの一言が決め手となった。




『大声出すなよ!5年前の君はどこに行っちゃったんだよ!』





その一言で、私は、全身の毛が猫のように逆立ち怒りに震えた。


「5年前の私はどこへ行ったかだと?!」


それを言っちゃーおしめーよ。



シャワーを出た私は、パジャマでスーツケースに子供たちのものを

乱暴に投げ入れた。


それを黙ってベッドで見ているアンドリュー。


子供を抱き抱え、スーツケースを車に投げ入れ、ドアを思いっきり閉めた。


怒りでアクセルを踏む足が震えた。


『どうしたの、ママ。』


そう聞く娘の声が、私の心にきつく重く刺さった。


勢いで出てきたものの

頭の中は、


これからのホテル代、いくらかかるねん?


とか


日本に帰るとしたら、赤ちゃんのパスポートがない。とっておけば良かった。


とか


来週の講習会、どうしよう、延期か?!


とか


いろいろなことの計算で頭がぐるぐる回った。


その中で、『5年前の君はどこ行っちゃったんだよ!』というアンドリューの声がこだまして

その声をかき消すために、また頭の中で計算を続けた。



ホテルの駐車場に止めて、一瞬考えた。

こんな姿で宿泊させてくれるかな。


ギャン泣きの赤ちゃんにおっぱいをあげるパジャマ姿の40代女性。


情けねえ。


警察呼ばれたら、、、


『原因はなんですか?』

『えっと、タンスの引き出しで喧嘩をして、、、、』


なんて、言えねーぜ。