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水中出産と陸出産のはざまで

ポーラとヘイリーが戻って来た17時。

ポーラの合図でアンドリューはプールにお湯を張り始めました。

その間、私は陣痛の来る度に、『ふうううううう』と呼吸をしていました。

その『ふうううの声が高すぎる』と何度も直されるものの、

低い音にする事が出来ない私。

痛くて痛くて痛くて痛くて、声まで気持ちがまわらない!

スクワットをしたり、横になったりと色々な体勢をしましたが、

横になっているのが一番楽でした。

でも、「横になっていると出産の行程が遅れるから」とポーラに言われて

起き上がった瞬間に、うぎょおおおおおおと叫び、カラダをねじりたくなるほどの痛み。

体勢を変えると、重力で子宮の位置が変わるのか、劇的な陣痛がカラダを襲います。

ニュートンめ!!!!

重力を発見しやがって。

あまりの痛さに、ヘイリーが私の仙骨に電流を流す機械をあてました。

ビリビリと流れる電流に、陣痛の痛みから別の感覚に意識を飛ばす事が出来て

楽になったと言えば楽になりました。

そう言えば、人間は二カ所同時に痛みを感じる事が出来ないって、言っていたっけ。。。。

そんな事を頭の片隅で思い出しながら、

『ふううううううう』と高音すぎると言われながらも息を吐いていました。

そんな私の横にはずっとドゥーラのグレイシーがいました。

グレイシーにインタビューをしたとき、彼女が私に言いました。

『いずみが一番、望まない事は何?』と。

私は言いました。

『Needyに思われるかもしれないけど、

 出産の行程中は私だけにフォーカスをして欲しいの。

 もしも、あなたが別の事に、例えばFacebookとかにアテンションをしていたら

 きっとガッカリすると思う。そして、信頼を失うと思うの。

 その日は私だけにフォーカスをしてほしい』

高校生が初めて出来た彼氏に『私だけを見て!』と言うかの様な台詞に

自分で苦笑をしながら、それでもきっと私は彼女にずっとフォーカスをして欲しいと

思う気持ちを大切にして、伝えました。

『それを知れて良かったわ。 I promise you that I will pay attention only to you』

それを聞いて私はホッとしました。

その言葉のごとく、彼女は私のそばにずっといました。

お腹がすいただろうとアンドリューがみんなにご飯をオファーしている間も

彼女は私の横にずっとついて手を握っていてくれました。

13時の時点でグレイシーが来たときには私は既に真っ裸でいました。

洋服を着る事すら頭になかったんだとおもいます。

彼女のカラダは大木の様にがっしりとしていて、

私がカラダのねじ曲げて叫んでいる間、彼女を押し倒すかの様に体重を全部預けても

しっかりと私を支えてくれていました。

グレイシーの手を握っているだけで私は安心をしていました。

彼女の手が有れば、私は陣痛を乗り越えられると思ったほど。

私の左手はずっとグレイシーが握っていてくれました。

途中で『いずみ、トイレに行きたいから手を離すわね。でもすぐに戻って来るから』

そう言って、彼女の手が私から離れたとき、私は少しパニックになりました。

そして、次の陣痛が来たときに『ぐれいしいいいいいいいいい!!!!』と叫ぶと

すぐに私の手が彼女のむっちりとした手に包まれました。

その手のぬくもりだけでも私の陣痛は少し和らいだ気がします。

彼女を雇って本当に良かった。

女性はこんなにも温かくて、優しくて、頼りがいがあって、包んでくれるのだと

全身で感じていました。

陣痛中はずっと目を閉じていたケド、私の体全体は彼女を感じていました。

さて、順調に私の子宮口は開いていきました。

そして、ポーラから「プールに行っちゃいましょう」というお達しが出ました。

横になったカラダから電流を外し、立ち上がった次の陣痛もまた

重力の変動でカラダがねじれる痛さでした。

うおおおおおおおおおおお〜!!!!!!!

と気が狂った様に叫んでいると、

ヘイリーが『さあ、プールに入りましょう』と。

プールは、出産直前に入ると教えられてました。

『もうすぐ赤ちゃん出て来るからね。多分あと2時間位で』

そのポーラの言葉を頭の片隅で聞きながら、うなずく事だけが精一杯だった私。

プールに入ると、私の身体は浮力と言うマジックで陣痛が途端に和らぎました。

すると、私の身体は、ウンコ座りのスクワットの状態になり

今まで高いふうううううという音だったのが、

とても低い『ううううううう〜』と言う音に自然と切り替わりました。

ポーラが『いずみ、それよ。それ』

眼を閉じながらも、

私を取り巻く女性3人が私のエネルギーがシフトしたのを喜んでいる感じが伺えました。

わたし自身も「天と子宮と膣と地」が一直線の光の筒でつながった感覚があり

この筒の中を赤ちゃんが出てくるんだと、本能的に感じました。

だから、陣痛がくるたびに

ゆっくりと赤ちゃんを押す行程を低い音で息を吐きながらで来ました。

呼吸とともに子宮口や膣がゆっくりと開いていくのを体感覚で感じながら、

その一直線の軸を私はとても心地よく感じていました。

だからと言って陣痛の痛みがなくなった訳ではないです。

ただ、天と地がつながった感覚の中に私の子宮と赤ちゃんがいるという体感覚を

得ていました。

その感覚に感動を覚えながら

(そうか、水中出産てヒッピーな人がやるものだと思っていたけど、違かった。

 水中出産ほど、気持ちよくて、自分の体に集中出来るものはない。

 もうこれしかないっしょーーーーーー!!!ビバ水中出産!!!)

と、心の中で歓喜をあげていました。

赤ちゃんの心音を聞き始めると、

ポーラが

『オーマイガーこの子は本当に強い子だわ』

と。

ポーラの言葉は全てがポジティブで

私が頑張ろうという気持ちになる声がけばかりでした。

だって、きっと『はい、心音オッケー。心拍140』と機械的に言う事も出来たと思う。

でも、彼女の言葉の中で機械的に話した言葉は

私の思い出す限りでは最後の緊急事態のときだけでした。

後はずっと、産婦に力を与えてくれる言葉ばかり。

それが直接的であろうと間接的であろうと。

私は、勇気や力を与えてくれる女性三人とコーチの言葉に救われました。

自分1人だったら、どれだけ心細かった事だろうか?

心を許して、心底信頼して、私の意志を一番に尊重をしている

出産のプロの三人に囲まれる。

しかも私なんかより遥かに知識も経験もあるプロが、

私にあーだこーだ言うのではなく

初心者の私の意志が一番だと言う。

『私のほうが経験があるのだから何でも私の言う通りにしなさい』

なんて事は一切言わない。

ずっと私のしたい事を待ってくれている。

その為に自分の経験と知識を使おうとしている姿勢に

プロってこういう事だよなあ〜と、

ポーラの姿から私は沢山の本当に愛を持ったプロの姿を学んでいました。

ピラティスの指導でも、

ヤムナの指導でも、

マッサージのセッションでも

インテグレイティッドヒーリングのセッションでも

クライアントさんのカラダがしたい事をしたい方向に動かしてあげる。

こんな贅沢な環境の中で、

そんな環境の中で、どれぐらい経った事でしょうか?

陣痛でプッシュをする度に、おしっこと血が出てプールの色が濁って来ました。

そして、次の陣痛がくるまで、深い眠りに落ちるというパターンと何度も何度も繰り返しました。

ふと次の瞬間にポーラが

『いずみ、プールから出ます。』

そう言ったとき、さっきまでのポジティブな天使のポーラが悪魔の声に聞こえました。

『いややーおにいいいいいいいいいい』

と頭をブンブン横に振りました。

そんなわたしに、

ポーラは驚くほど冷静に、優しく、そして強く説明をしてくれました。

『プールのお湯が冷めて来たの。そしてあなたは沢山の出血をしているわ。

 だから、この中で赤ちゃんが出てくるのは衛生的に良くないの。』

確かにプッシュしている最中、私は尿も一緒に出ていました。

だから、赤ちゃんが尿まみれというのも、どうかと思う。

でも、でも、、、、

『ポーラ、私はプールから出るのが怖いわ。

 だって、重力がある所にまた戻ったら、私、陣痛の痛みで気が狂っちゃうと思う』

そう伝えると

『いずみ、私を見て。

 陣痛というのはね、あなたのカラダが作り出しているの。他の誰でもないの。

 あなたのカラダが作り出している痛みなのだから、

 あなた自身がそれをコントロール出来るのよ』

とアシスタントのヘイリーが私の顔を両手で包み、目をまっすぐ見て言いました。

『えええええーええええええーーーーーーー』

渋る私を抱きかかえて、私は立ち上がりました。

重力を感じた次の瞬間、私はカラダをのけぞりながらグレイシーにしがみつきました。

イタイ〜イタイ〜イタイよおおおおおおおと

初めてその時に日本語が出て来たほど。

するとアンドリューが『いずみ、低い音で息を吐くんだ!』と言って

『ふううううう』と

私と一緒に息を吐こうと、いざなうアンドリュー。

その吐いた息が私の口に入って来て、

さっきまで食べていた物のニオイが私の鼻をつんざく。

くさいいいいいいいいいいいいいい〜!!!!!!

そう叫ぶと

『いずみは何を言っているの?』と日本語をアンドリューに聞いたポーラ。

『多分、いずみはイタイといっている』

「クサい」と「イタイ」と間違えているアンドリュー。

違う、クサいクサいクサい。イタイじゃない!と心の中で叫ぶが

言葉にするのもめんどくさいほど、私は重力と闘っていた。

多分、思い返してみるとクサくはなかったんだと思う。

ただ、陣痛で胃が押されて、自分が12時間前に食べたものが消化されず、げっぷとして出て来て、全ての食べ物が気持ち悪く感じていたのだろう。

ヘイリーにもグレイシーにも食べないとダメよッて言われたけど

『食べたら吐いちゃうから要らない。』

そう言ってずっと食べ物を拒否をしていた。

そこで、食べ物のニオイが出て来たのが強烈だったのだと思う。

陣痛の間に私はカウチに移動をした。

もう、私にスクワットをする大腿四頭筋の筋肉は残っていなかった。

時間はかかると分かっていても、横たわる事しか出来なかった。

色んな体勢の中でも、四つん這いなんて、地獄だった。

お腹がもっと重力で引っ張られてとんでもない!

逆子だったら四つん這いで産むって言ってたけど、

マジ、逆子じゃなくて良かったと陣痛の中で思ったほどだ。

さあ、ここから最後の本格的な出産へと入っていく事に。

そして、出産がどうして、あれだけ天と地がつながった感覚を持った中で産まず

陸出産になったのか、のちに理解をすることになったのでした。

つづく

モノクロから虹色へ

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