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手紙:愛しの長女へ

今、私は、病床でこの手紙を書いています。


きっと、長くはないだろうから、

あなたへの本当の気持ちを書いておこうと思って

あなたが面会時間が終わった後に少しずつ書いているの。


毎日、私のお世話をしにきてくれてありがとう。

『姉妹でお嫁に行っていない私が来るのは当然でしょ』


そう言いながら花瓶にお花を毎日生けてくれるわね。


そんなあなたのさりげない、そしてぶっきらぼうな優しさは

いつの頃からだったかしら?


もっと私が違う風に育てていたら、

あなたはもっとストレートに愛を表現する人に育ったのかなと

ふと思う日があります。



あなたが生まれた日、わたしは天からのギフトを授かったと思ったのよ。


神様が与えてくれた大切な宝物。


毎日一生懸命にお世話したわ。


泣いたらすっ飛んで抱きしめ、笑ったら部屋の明かりが一気に何百倍にも明るく感じたほど。


病気の時は、私が代わってあげたいと願ったものよ。


あなたの一瞬一瞬の行動が、私の心を奪い一喜一憂させたわ。


あなたを育てあげることができるか不安で泣いた日もあった。


どうしたらあなたが泣き止むのか分からなくて、一緒にわたしも泣いたの。


あなたが寝返りした日、

あなたがママと呼んだ日、

初めてあなたが私の指を握り返した日、

あなたが怖いと言って足に巻きついてきた日、

あなたが「ママー」と私がうんこをしてる最中にずっと呼び続けた日、

あなたが初めて鏡を覗き込んだ日、

あなたがおならをして笑った日、

あなたが初めておっぱい以外のものを口にした日、

あなたが初めて歩いた日、

あなたが初めてしたすべての日が記念日でかけがえがなくて、

写真に全部収めたくて、誰にも奪われたくない初めての日でいっぱいになった時だった。


70年経った今でも、耳を澄ませばあなたの優しく甘いママーって呼ぶ声が聞こえて来るわ。

それだけ、あなたは私にとって大切な娘だっていうことを

もう一度伝えたくてこのお手紙を書いています。


なぜかっていうとね、

きっと、あなたの花嫁姿は見るまで生きることはできないでしょう。


でもね、恋愛に踏みとどまってるあなたに一つ知ってて欲しかったの。


妹が生まれた時、ママは病院から帰ってあなたを見てびっくりしたの。

あんなに、私にとっては幼いあなたが、赤ちゃんと比べた瞬間あまりにも大きく感じたんだもの。


2歳のあなたは新生児と比べたら出来ることが沢山あって、

あなたはママがいなくても大丈夫だって錯覚をママは起こしたの。


2歳だって、まだまだ赤ちゃんなのにね。


だからあなたが牛乳の入ったコップを落とした日、ママは怒鳴ったね。

りんごの入った器を落としてリンゴが泥だらけになった時もなにやってんの!って怒鳴ったわ。

びちょびちょに濡れた靴下でおうちに入ってきたときもいい加減にして!って怒鳴った。

その右手のはあなたがママに見つけたきれいな貝殻を渡そうと握りしめてたのを後から気づいたけど、あの時のママは余裕がなくてごめんって言えなかった。


机の上に油性のマジックで一生懸命に描いたママの顔。

それを見て、嬉しさよりも、新品の机だった事と赤ちゃんが泣き止まないことで

わたしはあなたに「余計なことしないで!」と怒鳴った。


その時のあなたのなんとも言えない表情を私は今でも覚えている。

でも、あなたは何も言わなかった。

言えなかったのよね、2歳だもの。 それに甘んじて

あなたのする全ての愛おしい行為、2歳児の可愛い無邪気な行為を無下に扱った。


余裕がなかったの。泣いてばかりの赤ちゃん

家にいないお父さん

頼る人がいない町

両親から遠く離れた場所

孤独な1人の時間


とにかく毎日をこなすことで必死だった。

今は分かる。

あなたの全ての行動が愛であったと。

決して私を悩ませるものでもなく、むしろ私を喜ばせたかったこと、好奇心の塊だっただけだと。

そして、落としたり割ったり壊したりすることが、2歳児にとって必要な学ぶ過程の経験だったと。

ただ

あの時のわたしは見えなかった。


すると、あなたはだんだん無口になり一人で座って本を読むようになった。

独り言もよく言ってた。


それがわたしには都合が良かった。


良い子だと勘違いして

沢山あなたのことを褒めたわ。


あなたは一度だけそんな嘘に嫌気がさして、お風呂場の熱いお湯に飛び込んだ。3歳半の時。

妹が歩きはじめて目が離せなくなった時。

その傷があなたの髪の生え際にある火傷の痕の理由なのよ。


今まであなたは生まれた時からあるって言われていた痕だけど

本当は、その時に自分から熱湯に飛び込んだ時にできた傷だったの。

その時わたしは心臓がえぐられるほどだったわ。

でもあなたの心の叫びには気付けなかった。

寂しい気持ちだなんて少しも思わなかった。ただイタヅラをしてて落ちたんだと。


もしも、わたしがママとしてタイムマシンに乗って戻れるなら、あなたが2歳のあの時に戻りたい。

そして、もう一度あなたがまだ2歳だと理解してあなたを育て直したい。


ごめんなさい。私に余裕がなくてあなたを2歳の赤ちゃんとして見てあげれなかった。


ごめんなさい。私に余裕がなくて2歳の幼いあなたに私の思いどおりに動いて欲しいと期待した。迷惑かけないでと。


ごめんなさい。赤ちゃんのお世話に気が奪われてあなたの行動の裏にある想いに目が届かず寂しい思いをさせて。


わたしはあなたを生んで幸せな人生でした。

あなたが、心から笑ってあなたがしたい表現をして

あなたが愛されてる存在だと実感して生きてほしいと切に願っています。


今まで恥ずかしくて伝えたことはなかったけど、

こんな至らないママだったけど、あなたのことを最高に愛しています。生まれる前からずっと。

あなたをお腹に宿した日から、今日もずっと。そして死んでからもずっと。


だから。。。。


わたしの余裕のない行動で

「自分は愛されない存在だ」と信じ込むのは終わりにしてほしいの。



夜あなたが寝た後、私はあなたの寝てる部屋に入ってそっと小さなカラダを抱きしめたの。

パパと喧嘩した日に、夜寝ているあなたの髪の毛を撫でながら泣いた日もあった。

幼稚園にお迎えに行く時あなたが大好きなビックリマンチョコのお菓子を必ず買って行ったの。

渡すとあなたがニコリと嬉しそうな表情をするから。


毎年、海に連れて行く日をパパにお休みを取ってもらうようにお願いしたの。

船に乗って離島に行くとき、あなたの海を見つめる美しい表情を見たくて。


毎朝、必ずいってらっしゃいって笑顔で言うことは決めてた。

一歩家の外に出たら、私はあなたを守れない。

あなたのポッケに、必ずアイロンしたハンカチを入れたの。

万が一何かがあった時、このハンカチからあなただってわかるように。

私はあなたをすごく愛していた。

でも、きっとそれはあなたには伝わらない形で愛していたのだと思う。


先日、連れてきた男性。

とっても素敵な人だったわよ。


そんな関係じゃないって言っていたけど、

彼はあなたのことを愛おしそうに見ていた。



女性はね、

自分が愛される存在だって思えないと

どんなに男性から愛をもらっても、愛を感じれない生き物なの。


まずは、あなた自身が愛される存在だって知って欲しい。

私が十分に伝えられなかったから、この手紙であなたに伝えたくて。

愛しの長女へ、あなたはたくさんの愛をもらっていい存在なの。


その愛を感じさせられなかった至らない母親の私からのお願いよ。


愛をたくさんもらう人生を過ごすあなたを天国から見ています。


さようなら




*この手紙は、フィクションです。




モノクロから虹色へ


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