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ある閻魔大王の経験


目の前に4人の人間を目の前に閻魔大王は困っていた。

左から、

42歳のサラリーマン風男性

35歳の年齢よりも少し老けた感じの女性

15歳の少年

そして8歳の少女

が立っていた。

全員に共通することは、全員自殺者だということだ。

通例だと自殺は一番罪が重いので、否応無しに地獄行きを決定してきた。

ただ、今回は彼らの自殺した経緯を見ると、地獄行きを決定していいものかどうか

悩んだのだ。

4人の経緯はそれぞれあるのだが、35歳の年齢より少し老けた感じの女性の話を聞いて、もしかしたら、、、、と思いとどまった。

以下、この女性をKと呼ぶことにする。

Kは俯きながら閻魔大王にあう順番を待っていた。

彼女の表情は、虚ろであり、悲しみであり、後悔であり、いろいろなものが混じっているようだった。

彼女の番がきて『君はなぜ、死んだのだ?』

そう聞くと

『衝動的に、後先も考えずに、自らの命を絶ってしまいました』

と下を向きながら言った。

いつもならそこで、地獄行きのスタンプを押すのだが、

なぜか気になってもう少し聞いてみることにした。

『衝動的とはどういうことだ?』

『私は、一生懸命に頑張って生きてきました。

 自分が何をしたら正しいのかをいつも考えて生きてきました。

 それでも、子供を産んでから右も左も分からないことだらけで、

 毎日本を読んだり、マタニティのクラスに参加したり、産後のクラスに参加したり、

 セラピーに通ったり、とにかくできることをしてきました。

 今まではできることをしてきたら、全部こなすことができました。

 子育てもそうだろうと思ったのです。

 でも、分からないことだらけだったので、とにかく一生懸命に正解を探しました。

 ある日、夕ご飯の買い物を終えて、家に帰宅した瞬間に、

 犬の餌を買うのを忘れていました。

 慌てて、赤ちゃんと犬とスーパーに車で戻りました。

 でも、私はもう一日クタクタで、

 車から幼児を下ろして抱っこしてスーパーに行く余力は残っていませんでした。

 抱っこだけではなく、

 きっと好奇心いっぱいの彼女は歩き回りワインやパックに入った刺身など、

手当たり次第いたずらをすることでしょう。

 もう、そこに注意を向ける気力もなくて、、、、

 だから、「一瞬で戻ってくるから!」と言って、

 車の中に赤ちゃんと犬を残して、スーパーに餌だけを買いに行きました。

 急いで走って行きました。ものの5分ぐらいでした。

 駐車場に戻ってくると、

 一人の女性が携帯を片手に私の車の前で、仁王立ちをしていました。

 ”あなた、泣いてる赤ちゃんを残して何やってるのよ!

 母親失格ね!

 そういう母親が世の中に多いから、かわいそうな子供が増えるのよ。

 母親としての責任をちゃんと持って子育てをしているの?”

 そう一気にまくし立ててきました。

 私は言い返す気力もなく、”すみません”と言って、帰宅しました。

 子供を下ろし、買い物したものを下ろし、あとは夕ご飯の支度とお風呂の支度。

 その僅かな余力の中で急いで支度をしようとしていたところでした。

 ピンポンと呼び鈴がなったんです。

 こんな時間に誰だろうと思って外に行くと警察が二人立っていました。

 ”君は30分前に泣いている赤子を車に置いてスーパーに買い物に行ったね?”

 そう、彼らは言いました。

 ”はい”

 私はうなだれて、認めました。

 ”君は自分が何をしたかわかっているかね?

 もしも、そのまま車から赤子をさらわれたら、どうするんだい?

 君の子供を見せてみなさい。

 君の免許証を見せて、過去に犯罪歴が無いか調べてみるから”

 そう言って調べたんですけど、もちろん、私は犯罪歴などありません。

 ”まあ、今回は、何もなかったらいいけど、今後は母親失格なことをしないように”

 そう言って、警官が去って行きました。

 震える足を必死に隠しながらいた私は、玄関の扉を閉めると同時に

 腰の力が抜けて、泣けてきました。

 私って、そんなにダメな母親なんだろうか。

 どうして一所懸命にやっているけど、こんなにうまくいかないのだろうか。

 いろんな人から母親失格と言われて、

 本当に、こんな私が母親じゃ無い方がいいのかもしれない。

 そう思ってのことだったんです。』

閻魔大王は困ってしまった。

この女性の思いつめた表情は、そういうことだったのか、、、と。

そして、最近の自殺者がなんだかこういうパターンが多いのも気になった。

閻魔大王の俺様が、悪の判断を下すのではなく、

楽しく地球で遊んでいるはずの人間が他の人間の悪の判断を下すようになった。

そういえば、

42歳のサラリーマン風男性も

15歳の少年も

そして8歳の少女も

みんな「こんな私でごめんなさい」と言って、自殺をした経緯を言っていたのを思い出した。

『少し待っとれ』

そう言って、閻魔大王は、事務所に戻り、神様電話という神様直通の電話の受話器を

取った。

『どーしたんー?』

いつも陽気な神様にこんな重い話をするのが憚られたが、

かくかくしかじかと、伝えてみた。

『まあ、この経験をして死んだら、同じエネルギーを持って輪廻転成にしちゃうから、

 ちょっと新しい経験をさせてみてもいいかもね。』

そう言った瞬間に、時空をぐにゃりと変化させて、

その4人を死ぬ決定打となった瞬間に連れ戻した。

本当に、この神様って、どこ出身なのかも、男なのか女なのかも、全くわからない。

ただ、いつも突拍子も無い考えで、あらゆる可能性を見せる自由さには感服する。

このKがどんな経験をするのかとても気になって、

『今日はここまで!』

と重い扉をバタンと閉めた。

そして、熱々のポップコーンをつくって、

神様が考えたことや、この女性Kの動向を追うべく人間界につながる中継テレビの前に座った。

続く

モノクロから虹色へ

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