歌えない


父親と母親と三人でハイキングに行きました。

父親は葉っぱを見つけると、それを草笛にしてぷぅぷぅ吹きます。

どこかに散歩に出かけると、道ばたの葉っぱをもぎ取りぷうぷう吹きます。

これは子供の頃から良く聴いていました。

『いずみ、出来るか?』

そう言っていつも葉っぱを見つけては、いい音のする草笛を作っていました。

いつだか、彼のお財布からはさみで葉っぱの形に切ったお菓子の袋が出て来ました。

初めはベルマークを集めているのかと思った程。

『何これ?』って聞くと『草笛のかわりだよ』って。

本当に草笛が好きなんだな〜って思っていました。

さて、今日、ハイキングをしている最中に

『あのね、明日キルタンっていう歌をみんなで歌うクラスがあるんだけど

 お父さん一緒に行かない?』

そう聞くと、『そうだな〜嫌だよ』と言います。

ふーん、ま、考えが変わったら言って。

そう言って歩き続けました。

英語だから嫌なのかな〜

夜出かけるから嫌なのかな〜

ずっと座っているのがしんどいのかな?

行った事が無い場所だから嫌なのかな〜?

そんな風に色々と考えてましたが、『ま、嫌な物は仕方が無いか』なんて思って過ごしていました。

カリフォルニアは雨が降らないので、草笛に最適な葉っぱは見つからなかったらしく

今回の散歩で、珍しく父は草笛を吹きませんでした。

そして、自宅に帰って夕ご飯の時に、キッチンの中で夕ご飯を作っていると

父がカウンターに座り話し始めました。

『子供の頃に、合唱コンクールがあったんだよ。 

 僕は大きな声で歌を一生懸命に歌っていたんだ。

 そしたら、先生から後で”滝口、お前は口パクをしていろ”ッて言われてね、

 それから、歌う事をやめたんだ。

 だから、草笛を吹く事にしたんだ、歌うかわりに。』

悲観する事も怒る事も無く、淡々と”事実”のように話す父。

娘の私には、衝撃的でした。これを書いていても、込み上げて来る涙を飲み込む喉が熱くなります。

『そうか、それで、みんなで歌うクラスに参加するのが嫌だったんだね。

 クラスに行って歌ったら迷惑をかけちゃうって思ったんだね。』

誰かが言った一言を、そのまま自分のハートに入れてしまう事がある。

そのまま、自分は歌がへたくそで、歌うとみんなに迷惑をかけてしまうんだと。

私はお父さんが、お風呂場で歌っているのを聴いた事がある。

裏庭で一人になった時に大きな声で歌っているのを聴いた事がある。

へたくそなんかじゃない!

そう言いたいけど、私がいくら目に見えない70年前の誰かにあらがった所で

父がそれを信じている事には変わりないのだ。

誰かが言った一言を70年も信じ続けている父。

そして、ハッとしました。

私も、誰かが言った一言を『真実』として受け止めて今も持ち続けている事がある。

それは、ダンスの世界で上の立場の人に言われた一言でした。

『あなたの笑顔は汚い。』

言われた事が無かったから、

ビックリしたと同時に、そうなんだ。。。って受け止めた私がいました。</